使った紙おむつをリサイクルへ 何に生まれ変わる?

使った紙おむつをリサイクルへ 何に生まれ変わる?
「毎分、30万枚以上」。
世界で焼却処分されたり、埋め立て処分されたりしている使用済み紙おむつの数です。(UNEP=国連環境計画の報告書より)。
高齢化が進む中、国内での大人用の紙おむつの生産量は伸び続けています。ごみとして捨てられ、焼却される紙おむつが増えることは、温室効果ガスの増加にもつながりかねません。
そこで今、進められているのが使用済み紙おむつのリサイクルです。
(社会部記者 間野まりえ)

ごみの7%が「使用済み紙おむつ」に

65歳以上の高齢者の割合は上昇を続け、総務省の最新の推計では9月時点で3623万人です。

総人口に占める割合は29.1パーセントで過去最高となっています。

高齢者の増加に伴い、大人用の紙おむつの需要も伸びています。
紙おむつメーカーなどで作る業界団体の日本衛生材料工業連合会による大人用紙おむつの生産量の推移を見ると、この10年あまりで1.6倍に増えています。

環境省は、少子化の影響で子ども用の紙おむつの生産量は減っている一方で、大人用紙おむつの増加幅が大きいことから、ごみとして出される紙おむつの全体の量は今後、増加することが見込まれるとしています。

一般廃棄物に占める使用済み紙おむつの割合も、2015年度には最大210万トン、一般廃棄物の4.8%だったのが、2030年度には最大261万トン、一般廃棄物の7.1%に増えると推計されています。

「使用済み紙おむつを資源に変えませんか」

こうしたことから、環境省はことし、使用済み紙おむつのリサイクルを促進するためのプロジェクトを発足させました。

環境省の調べでは、紙おむつのリサイクルを実施・検討をしている自治体は、現時点では全国で30程度。

これを2030年度までに今のおよそ3倍、100自治体に増やすという目標を設定しました。

処分は自治体の悩みの種に

紙おむつのリサイクルを検討している自治体のひとつ、神奈川県鎌倉市です。

人口17万人あまりの神奈川県鎌倉市では年間およそ3万トンの焼却ごみのうちおよそ1割を紙おむつが占めています。

最も多いのは生ごみで4割程度を占め、紙おむつはそれに次ぐ多さだといいます。

紙おむつは尿などの排せつ物を吸収するため、「高分子吸収材」が使われているのが特徴です。

紙おむつの大きな利便性ですが、処分する際にはこれがネックになっています。
吸収材によって、使用済み紙おむつは4倍程度に膨らむとされ、吸収材に含まれた水分の影響で燃やすのに時間がかかります。

そのため温室効果ガスを多く発生させ、環境に負荷をかけることにもつながります。

また、鎌倉市はいまの焼却施設を老朽化のため2025年3月に廃止し、その後、近隣の自治体と共同で焼却施設を運用することになっているため、焼却ゴミを3分の1に減らすことを目標としています。

こうしたことからいま、検討を進めているのが紙おむつのリサイクルによる焼却ごみの削減だといいます。
鎌倉市ごみ減量対策課 不破寛和課長
「紙おむつの焼却処分は環境への負荷も大きいことが課題となっていました。今後高齢化でさらに増えることが見込まれていて、焼却施設の処理能力のことを考えると、紙おむつの資源化が必要であると考えています」

リサイクルに向け技術開発が進む

紙おむつのリサイクルに向けた技術開発も各地で広がり始めています。

千葉県松戸市にある企業「サムズ」は、もともと布おむつのクリーニングを手がけていましたが、その経験や技術をいかして紙おむつのリサイクル事業に取り組み始めました。
近隣にある5つの高齢者施設などから1日1~2トン程度の使用済み紙おむつを回収し、工場にある専用の機械に投入します。
実際に工程を見せてもらうと、大きなドラム式洗濯機でまるで洗濯をしているように見えました。

ここでも問題になるのが紙おむつの特徴でもある吸収材です。

この企業の鴨沢卓郎社長は、吸収材さえ取り除くことができたら、残りの素材についてはクリーニング技術を応用して取り出すことができるのではないかと考えたといいます。

試行錯誤の結果、薬剤を混ぜ、特許を取得した技術により消毒・洗浄することで、課題となっていた吸収材を分離することに成功。
機械からは残ったプラスチックとパルプなどが出てきます。

さらに、一度水に溶け出たパルプも取り出して消毒して再利用します。
こうして取り出したプラスチックは工場などで使う固形燃料に、そしてパルプは段ボールなどの原料となり、リサイクルすることができました。

一方で課題もあります。

リサイクルは焼却よりも費用がかかることに加え、一般家庭などから紙おむつを回収するための仕組み作りを企業だけで進めるには限界があるといいます。

そのため、この企業ではほかの企業とも連携して、自治体に協同でリサイクル事業に取り組むことを働きかけていきたいとしています。
サムズ 鴨沢卓郎社長
「今は自治体が税金で負担しているケースや、ごみを出す事業者が負担しているケースなど、バラバラです。リサイクルにかかる適正な費用を誰がどのように負担するのか、あるいは支援するのか、さらに分別・収集から再生利用までの一連の仕組みづくりが重要だと考えています」

大手紙おむつメーカーも特色あるリサイクル技術を開発

大手紙おむつメーカーもそれぞれリサイクルの技術開発などを始めています。
ユニ・チャームは鹿児島県の自治体と連携し、モデル地区に回収ボックスを設置して集めた紙おむつを分解・消毒して再び紙おむつとして製品化する取り組みを進めています。
また、花王は京都大学や愛媛県の自治体と連携し、保育施設に熱分解できる装置を設置して、体積を20分の1にして、今後資源として再利用する取り組みを検討しているということです。

紙おむつは海洋プラスチックの問題に

使用済み紙おむつの処分は、日本だけでなく、世界的にも大きな課題となっているといいます。

UNEP=国連環境計画は、世界の使い捨てプラスチックの生産と消費が、安全に処分できる能力をはるかに上回っていて、プラスチック汚染は危機的状況であり、中でも紙おむつはその最大の要因の1つだと指摘しています。
そして多くの国では、紙おむつが焼却処分ではなく埋め立て処分されていて、このまま対策をとらなければ、プラスチックごみとして海洋へ流出する量が増加すると警鐘を鳴らしています。

こうした世界的な問題に対し、環境問題に詳しい、九州大学の磯部篤彦教授は、日本で進められているリサイクル技術を海外に発信することが求められていると指摘します。
九州大学 磯辺篤彦教授
「レジ袋や食品の容器などのプラスチックとは違って、紙おむつは使用量を減らすということは現実的に理解が得られにくく、特に対策が難しい問題です。それだけにリサイクルの先進的な取り組みを進めて、どんどん日本の技術を海外に向けても発信していくべきだと考えています」

紙おむつの未来は

磯辺教授は、こうも話していました。
九州大学 磯辺篤彦教授
「まずはこうした問題について『知る』ということが何より重要です。プラスチックは非常に便利なもので私たちの生活を豊かにしてくれることは間違いありません。しかし、一方で、今、問題解決に動かなければ、次の世代が享受できたはずの海の豊かさを犠牲にしてしまうことにつながるかもしれないことに私たちは思いをはせるべきです」
紙おむつの普及で私たちの生活は便利になりました。

ただ、便利さだけではなく、処分の方法までを含めて、利用者である私たちも考えていかなければいけない課題だと感じました。
社会部記者
間野まりえ
2011年入局
京都局・甲府局を経て社会部
社会保障や環境問題を取材